当教室では大学院統合医科学専攻の演習として、「鴨川統計集会」(Kamogawa Statistical Conference; KSC)を実施しております。
手良向 聡 「ランダム化検定」
ランダム化は推論のための統計学的な基礎を与える。
本発表では,母集団パラメータの統計的検定による母集団モデル(population model)とは全く異なる発想から生まれたランダム化モデル(randomization model)を解説する.
ロナルド・フィッシャーにより提案されたこの考え方は,ランダム化の意義を理解する上で重要である。
中田 美津子 「区間打ち切りデータを用いた直接調整生存関数の推定」
正確なイベント発生時点を特定できない区間打ち切りデータに対する解析手法に関しては、SASではICPHREGプロシジャが利用可能である。
しかし、PHREGプロシジャにおいてSAS12.1より装備されている直接調整生存関数(direct adjusted survival curve)の推定オプション、DIRADJコマンドはICPHREGには未だ装備されていない。
今回、区間打ち切りデータを用いて直接調整生存関数の推定を試みたので報告する。
藤川 桂 「EGFR遺伝子変異陽性非小細胞肺癌におけるT790M変異と治療前の患者背景・肺癌組織検体の関係を検討する研究」
EGFR遺伝子変異陽性非小細胞肺癌において、2次治療としてオシメルチニブを使うには、T790M変異があることが条件であり、
T790M変異発現を治療前から予測することが出来れば、治療戦略を考えるうえでメリットとなる。
本発表では、T790M変異と治療前の患者背景・肺癌組織検体との関係を、CART法を用いて解析した結果について報告する。
周 梦雪 「Kyoto Childhood Refraction Error Study (KCRS)」
小学生、中学生で視力1.0未満の割合が年々増加している。近視眼では眼軸長が過剰に伸長し、角膜から網膜までの距離は長くなり、眼球が変形する。眼軸長が伸長して眼球が変形してしまった場合は回復が期待できない。近年、様々な光学的近視抑制法があり、多くは軸外収差理論に基づいているが。軸外周差の関与だけで説明できない事象が多く確認された。
本研究は眼軸長、ケラト値Kw(Diopter)、瞳孔径、高次収差と近視、近視進行の関連について検討した。
堀口 剛 「前立腺がん陰性予測モデルの検討(Negative MRI project)」
PSAスクリーニングとsystematic biopsyにより前立腺がん(PCa)の早期発見が可能になったが、同時にそれは臨床的に意義のないがん(CICa)の過剰検出を導く。
PCaの早期発見は重要であるが、CICaの過剰検出は生活の質を低下させる恐れがあるため、CICaを精度よく判別することが必要である。そこで今回、前立生検で陰性となる確率を予測するモデルの検討を行った。
発表では、データの概要及び解析方法、結果について報告する。
周 梦雪 「Kyoto Childhood Refraction Error Study (KCRS)」
小学生、中学生で視力1.0未満の割合が年々増加している。近視眼では眼軸長が過剰に伸長し、角膜から網膜までの距離は長くなり、眼球が変形する。眼軸長が伸長して眼球が変形してしまった場合は回復が期待できない。
近年、様々な光学的近視抑制法があり、多くは軸外収差理論に基づいているが。軸外収差の関与だけで説明できない事象が多く確認された。
本研究は京都市内都市部凌風学園と京都府内農村部夜久野学園の小学生、中学生裸眼視力、屈折度数測定、眼軸長、角膜曲率半径、高次収差(角膜・眼内)瞳孔径4mm、6mmなどの測定データを用いて高次収差と近視進行の関連、近視進行の予測について検討する。
中田 美津子「Multi-state modelを用いたSJS/TEN治療効果の推定」
高熱や全身倦怠感などの症状を伴って、紅斑・びらん・水疱が多発し、表皮の壊死性障害を認める疾患であるSJS/TENの眼合併症に対する第3回調査疫学調査が眼障害の観点から治療と後遺症の関連を調査することを主たる目的として計画された。解析方法として連続時間における確率的な過程を表すモデルであるMulti-state modelの使用を検討している。本研究をMulti-state modelで考える上で要となるのは1) competing riskとしての死亡の存在 2)時間依存性共変量および時間依存性治療の存在 3) 時点kにおける治療戦略gがそれまでの共変量や治療のhistory に依存すること4)平均治療効果の推定方法の四点である。これらの点について現時点での検討内容を述べる。
手良向 聡「情報統合、データ解析、臨床試験デザイン」
製薬企業と大学における35年間の経験および我々を取り巻く環境を振り返り、情報統合(メタアナリシス、費用効果分析など)とデータ解析(予後因子解析など)の事例を紹介しながら、一次情報(生データ)と二次情報(文献情報)の違い、理論と実践のバランス、臨床試験デザインの奥深さなどについて雑感を述べる。
横田 勲「SARS-CoV-2唾液診断法のマススクリーニング」
SARS-CoV-2感染拡大の抑制のために、感染者を早期に特定し隔離する戦略がとられ、当初、診断には鼻咽頭スワブ液を用いた核酸増幅法が当初用いられた。
採取の負担が少ない唾液を用いた診断法のマススクリーニングを実施した。研究デザイン、実施上の困難を中心に本研究を紹介する。
藤川 桂「層がある場合の単群臨床試験におけるベイズ流解析」
バスケット試験において以前提案した、各層間の事後分布の類似度 (1-Jensen Shannon divergence)に基づき情報借用を行う方法を、ASIA機能障害尺度によって層別され、各層ごとに異なる閾値が設定されたステミラック注試験に適用させた結果の報告を行う。
堀口 剛「自動視野計の検査結果比較における解析方法の提案」
以前のKamogawa Statistical Conferenceにおいて、「自動視野計アイモとハンフリー視野計との比較」の解析方法および結果を報告した。しかし、検査点が複数存在する視野計データの比較方法として確立した解析方法はなく、改善の余地はあると考える。今後、自動視野計の検査結果を比較する同様の研究が予定されているため、検査点が多数存在する場合のより適切な解析方法についての検討内容を述べる。
岡本 明也「びまん性大細胞型B細胞性リンパ腫(DLBCL)における中間可溶性IL2受容体(sIL2R)の意義」
DLBCLにおいて初診時のsIL2Rの値は予後と相関するとされているが、治療経過中の値についての報告はない。今回中間sIL2Rと予後の相関を検討するために、京都第二赤十字病院のDLBCL患者115例を対象とし、後方視的に検討した。時間依存ROC解析で決定した中間sIL2Rの値を用い対象患者を2郡に分け、カプランマイヤー法で算出した2年無増悪生存期間をlog-rank検定で比較したところ、中間sIL2R高値群は不良であった。Cox比例ハザード解析を用いた多変量解析においても同様の結果であった。
以上のことから中間sIL2Rを測定することに意義があると言える。
中田 美津子「メタボリックシンドロームの時系列変化に伴う心血管疾患リスクの変化」
メタボリックシンドローム(以下MetS)は、1)内臓脂肪蓄積、2)インスリン抵抗性、3)動脈硬化惹起性リポタンパク異常、4)血圧高値のうち、1)と2)-4)のうち少なくとも2つを合併した病態を指し、第一の臨床的帰結は心血管病である。そのため、メタボリックシンドロームと診断されたら心血管病予防のために、栄養指導と運動指導による肥満の解消が勧められる。現在まで、MetSとMACE(Major Cardiac Adverse event, 主要有害心イベント)との関連をみた研究は、そのほとんどが一時点におけるMetSの有無とMACEとの関連をみたものであり、MetSステータスの時系列変化に伴うMACEリスクの変化をみた研究は1例のみである。
今回、ランドマーク分析を用いてMetSステータスの変化がMACE発症リスクに与える影響を推定したので報告する。
手良向 聡「統計学を哲学する(大塚淳)」を読み、臨床試験の方法論について考える」
臨床試験を「この治療には効果があるのか?」という科学的な問いではなく、「この治療に効果がある場合(または、ない場合)、それをどのようにすれば知ることができるのか?」という認識論的な問いに応える1つの手段と考えてはどうか? 頻度主義を外在主義的、ベイズ主義を内在主義的という理解には深い感銘を受けたが(大塚淳氏の「統計学を哲学する」)、
そうするとベイズ主義に従った臨床試験のデザインと解釈は認識主体に依存してもよいということではないか? 認識主体の候補としては、医師個人(または、そのコミュニティ)、患者個人(または、そのコミュニティ)、国民の代表としての規制当局などがあるのではないか?
亀井 修「CT検査時における日本人の体型と骨髄線量の関係の考察」
X線CT検査時の日本人の一般的な体型での骨髄線量を、モンテカルロシミュレーションにより推定した。
日本人の標準体型のボクセルファントムであるJM-103、JF-103ファントムの骨組織は7種類の骨組織に分けられ、
またそれぞれの骨組織は異なる含有率の赤色骨髄、黄色骨髄、硬骨で構成されている。各骨の骨髄線量はそれぞれの骨組織の7種類の物質の質量分率で求めた。
その結果、JM-103およびJF-103それぞれの赤色骨髄の線量分率は0.300および0.275となった。
そこで一般日本人男女における線量分率をJM-103、JF-103と等しいと仮定し、それぞれの体型と骨髄線量の関係の推定を行ったので報告する。
村松 彩子「カルフィルゾミブによる心血管系有害事象に対するバイオマーカーに関する探索的研究」
カルフィルゾミブ(CFZ)を用いた治療は、再発・難治性多発性骨髄腫患者を対象とした臨床試験において有効性が示されている。
CFZに関連する心血管系有害事象(CVAE)が重要な有害事象として報告されているが,CVAEの発生機序やその予測因子は明らかにされていない。
我々はCFZ併用療法における治療関連CVAEの発生率と潜在的な危険因子、CFZ関連高血圧発症を予測するバイオマーカーについて検討した。
廣瀬 一隆「体系学における統計学」
三中信宏氏の『統計思考の世界』や『系統体系学の世界』を中心として、農業実験などで検定が応用されてきた歴史を振り返る。
その上で、系統学で培われた進化論的解釈が、がん研究などに応用されている現状を検討する。
山本 紘之「CT perfusion imagingとdual-energy CTに基づく急性期脳主幹動脈閉塞症に対する急性期血行再建術後の頭蓋内出血のリスク因子の検討」
急性期脳主幹動脈閉塞症 (emergent large vessel occlusion: ELVO)では、血管内再開通療法(endovascular recanalization: EVR)により閉塞血管を早期に再開通させることで虚血コアの周囲に存在するペナンブラを救済し、良好な転帰が得られる可能性がある。
しかしEVRは術後に頭蓋内出血を引き起こす場合があり、患者の予後不良と関連している。特に術前の脳循環が低下している領域において出血性変化をきたしやすい可能性が指摘されているが、明確なリスク因子は明らかでない。
またEVRの術後は単純CTで頭蓋内を評価することが多いが、造影剤の貯留や漏出を頭蓋内出血と鑑別することが困難であり、周術期管理が困難となる事も少なくない。Dual-energy CTは、管電圧の異なる2種類のX線で撮像を行うCT撮像法の一つで、エネルギーごとに物質固有の吸収係数が異なることを利用して物質の弁別や解析を可能にするものであり、近年臨床応用が進んでいる。
EVRの術後にdual-energy CTを撮像することで、造影剤の貯留や漏出と頭蓋内出血の鑑別が容易となる。またCT perfusion imaging(CTP)は造影剤を用いた撮像法の一つで、簡便に複数の脳循環に関する灌流パラメータ値が得られるため脳循環を定量的あるいは半定量的な評価が可能であり、近年ELVOに対するEVRの治療適応の決定に使用されるようになってきている。
本研究では、ELVOの症例から得られるCTPの各種パラメータとdual-energy CTの画像から、EVR後の頭蓋内出血のリスク因子を検討する。
当教室では学内で以下の講義を担当しております。
鴨川統計集会を参照してください。
生物統計学分野における最先端の研究について講義を行う。
関心のある領域の臨床研究データの統計解析に基づいて、予後因子の同定、予後指標の構築、予防・診断・治療効果の推定を正しい方法で行えるように指導する。
臨床試験はデザイン・計画の段階から始まり、試験実施・データ管理・モニタリングを経て、データ解析・報告書作成に至る。この各ステップが統計的方法を必要としている。再現性によって結果を保証することが可能な基礎実験と異なり、同じデザインで繰り返すことが困難な臨床試験においては、デザインと手続きの妥当性から結果を保証するしかない。本講義では、ランダム化対照試験の標準的方法、および探索的臨床試験のデザインとして有用と思われるベイズ流の方法について解説する。
予後因子解析は、観察研究や予後調査のデータから重要な情報を得る基本的手法の1つで ある。しかし、一口に予後因子解析と言っても、その目的は様々であり、目的を整理し、目的に合った統計的手法を用いて妥当な結果導くことはそれほど容易ではない。予後因子解析の意義は、1)疾患実体を明らかにすること、2)予防法、治療法開発の手掛りを得ること、3)試験デザインに利用すること、である。本講義では、予後因子解析の基礎となる方法(ロジスティック回帰分析、Cox回帰分析)の解説、および事例の紹介を行う。
6/10 4限、 11/11 2限
観察研究および臨床試験のデザインについて理解するとともに、臨床研究に関する法規制、研究公正の基本を知る。
臨床研究論文を正しく読むために、臨床研究の方法論、特に統計的デザイン、データの質管理、結果の報告などについて学習する。
研究計画の方法として、臨床研究(臨床試験・観察研究)の方法論を理解した上で、研究実施計画書の概要が作成できることを目標とする。統計解析の方法として、データの適切な要約と視覚化の仕方、統計手法を正しく理解した上で、研究デザインおよびデータに対応した統計解析が行えることを目標とする。
生物統計学は、臨床研究・疫学研究の方法論の基礎となる学問である。臨床研究・疫学研究の計画・デザインの段階から統計解析・報告の段階まで、生物統計学の知識とその活用が必須となる。本講義では、数学的な厳密性を保ちつつ、実践における有用性を重視して、生物統計学に基づく科学の考え方を講義する。
1. 4/14 | 4限 | 臨床研究と生物統計学(手良向) |
2. 4/14 | 5限 | データの記述と推測(藤川) |
3. 4/21 | 4限 | 頻度流統計学とベイズ流統計学(手良向) |
4. 4/21 | 5限 | 2群の比較(藤川) |
5. 4/28 | 4限 | 分散分析と一般線形モデル(手良向) |
6. 4/28 | 5限 | 交絡バイアスとその調整(松山教授・非常勤講師) |
7. 5/12 | 4限 | 生存時間解析(手良向) |
8. 5/12 | 5限 | ロジスティック回帰分析とコックス回帰分析(手良向) |
10. 6/10 | 4限 | 観察研究デザイン (手良向) | |
13. 9/16 | 3限 | 臨床試験デザイン(1)(手良向) | |
14. 9/16 | 4限 | 臨床試験デザイン(2)(手良向) | |
19. 11/4 | 3限 | 評価尺度の信頼性と妥当性(手良向) | |
20. 11/4 | 4限 | メタアナリシス・費用効果分析 (手良向) | |
21. 11/11 | 3限 | 診断法の統計的評価(講義の確認テスト) (藤川) |
臨床試験のデザイン、および確率、統計学、AIの関係について講義する。