鴨川統計集会 (Kamogawa Statistical Conference; KSC)

当教室では大学院統合医科学専攻の演習として、「鴨川統計集会」(Kamogawa Statistical Conference; KSC)を実施しております。

• 5/15(火)　16:00-17:30

• 藤川　桂　「事後分布の類似度に基づき情報借用を行うベイズ流バスケット試験デザイン」

  藤川　桂　「事後分布の類似度に基づき情報借用を行うベイズ流バスケット試験デザイン」
  
  バスケット試験は、がん種（各がん種は層と呼ばれる）にかかわらず、特定の遺伝子変異をもつ患者を対象とし、薬剤の効果を調べる臨床試験である。 本発表では、バスケット試験の新たなデザインとして、対象とする層の事後分布と他の層の事後分布の類似度から借用する情報の量を決め、 それらの情報を結合することにより、対象とする層の事後分布を更新し、中間モニタリングにおいて中止・継続、最終解析において有効・無効の判断を行う方法を提案する。 また、シミュレーションにより、階層ベイズモデルを用いた既存手法と提案手法の動作特性を比較した結果を報告する。

• 6/12(火)　16:00-17:30

• 横田　勲　「非劣性試験におけるrestricted mean survival timeに関する性能評価」

  横田　勲　「非劣性試験におけるrestricted mean survival timeに関する性能評価」
  
  近年、ハザード比に代わる評価指標の一つとして、境界付き平均生存時間(restricted mean survival time;RMST)の差が注目を浴びている。 優越性試験の状況における評価はここ数年散見されるが、非劣性(non-inferiority)試験の状況での検討はわずかである。 本発表では、RMSTを適用しようとした非劣性試験の実例を舞台に、非劣性マージンや統計的効率について、議論を行いたい。

• 7/3(火)　16:00-17:30

• 手良向　聡　「頻度主義とベイズ主義」

  手良向　聡　「頻度主義とベイズ主義」
  
  ロイヤルの3つの問い（証拠から何が分かるか、何を信じるべきか、何をするべきか）に対応する3つの主義（尤度主義、ベイズ主義、頻度主義）のうち、 特に頻度主義とベイズ主義について、エリオット・ソーバー著「科学と証拠」を読みながら考える。

• 9/18(火)　16:00-17:30

• 木下　文恵　「日本人筋層非浸潤性膀胱癌における膀胱内再発、病期進展および膀胱癌死予測モデルの開発」

  木下　文恵　「日本人筋層非浸潤性膀胱癌における膀胱内再発、病期進展および膀胱癌死予測モデルの開発」
  
  膀胱癌のうち筋層非浸潤性膀胱癌の患者において、海外では経尿道的主要切除術(TURBT)術後の予後予測のためのリスク分類が提唱されているが、 日本人症例には適用しにくいことが報告されている。そこで、日本人における新規の予後予測モデルを開発することを目的として解析を行っている。 今回は、以前報告した方針に従って解析を進めた結果を報告する。

• 10/9(火)　16:00-17:30

• 田中　司朗　「医学のための因果推論の基礎概念」

  田中　司朗　「医学のための因果推論の基礎概念」
  
  医学において, 原因と結果の関係について言及するとき, しばしば反事実（counterfactual）の形をとる. たとえば「遷延性肺高血圧症の新生児に, ECMO（体外式膜型人工肺, extracorporeal membrane oxygenation）を用いて酸素を供給していたら, 命が助かったか」というとき, 実際にはECMOは用いられなかったのだから, これは事実に反する命題についての推測である. 統計学的推測では, この問題を確率分布で定式化することになるが, それは大きく分けて2つある. 1つ目は, 観察されるデータの確率分布である. 治療AiとアウトカムYiの条件付き確率分布Pr(Yi|Ai)がわかれば, ECMOを用いたときどのようなアウトカムが生じるかを予測することができる. もう1つは, 観察されないアウトカム（潜在結果変数, potential outcomes）を含めた定式化である（Neyman 1923, Rubin 1974）. 仮に対象者iに従来療法を用いたときの潜在結果変数をYi0, 仮にECMOを用いたときの潜在結果変数をYi1と定義する. 両者に差があるかどうかはτi=Yi1-Yi0によって調べることができる（これを, 解析単位レベルの因果効果という）. 相関と因果の区別, ランダム化の下でのp値の意味（Fisher 1935）, 交絡（confounding）や併合可能性（collapsibility）といった観察研究で生じる概念（Greenland, Robins, and Pearl 1999）は, 潜在結果変数という概念を導入することで, うまく説明できる. 本論文では, 1980～90年代に行われたECMO臨床試験（Bartlett, et al. 1985, O'Rourke, et al. 1989, UK Collaborative ECMO Trial Group 1996）を題材に, 因果推論の基礎概念について解説する. この事例の特徴は, 治療をランダムに割付けることの倫理性が問われたこと, アウトカム適応的ランダム化（outcome adaptive randomization）が採用されたこと, それにもかかわらず交絡が生じたことなどである.

• 青山　武司　「高齢者の急性大動脈解離における手術と保存治療のアウトカム比較」

  青山　武司　「高齢者の急性大動脈解離における手術と保存治療のアウトカム比較」
  
  高齢者のStanford A型大動脈解離に手術を行うべきかどうかは以前から議論されてきた問題である。近年手術成績の向上とともに手術に肯定的な報告が増えているが、 実際に保存治療と比べてどの程度アウトカムに差があるのかは明らかでない。そこで我々は日本のDPCデータを用いて両群の比較を行った。 2014年~2016年までの2年間にStanford A型大動脈解離で入院した80歳以上の患者をDPCデータから抽出し、傾向スコアマッチングによる手術群と保存治療群の比較を行った。

• 11/13(火)　16:00-17:30

• 全　有耳　「小学校低学年時のメンタルヘルスの問題と5 歳の発達特性の関連」

  全　有耳　「小学校低学年時のメンタルヘルスの問題と5 歳の発達特性の関連」
  
  学齢期以降の発達障害児では、行動や情緒の問題の併存リスクが高いとする報告が多いが、 グレーゾーンの児を含めた検討は少ない。今回、小学校低学年時の行動や情緒の問題の要因 とその性差を明らかにするために、公立小学校通常学級に在籍する7-9 歳児367 人を対象に、 幼児期の発達や行動特性との関連を分析したので報告する。

• 手良向　聡 「臨床試験デザインの科学性と効率性」

  手良向　聡 「臨床試験デザインの科学性と効率性」
  
  日本心臓病学会学術集会（2018.9.7）会長特別企画「臨床試験における科学的根拠とp 値： p < 0:05 が教えてくれること」、および日本小児血液・がん学会学術集会（2018.11.16）シンポジウム「小児がん臨床研究の統計的デザイン」での発表内容を基にして、臨床試験デザイ ンの科学性と効率性のバランスについて議論したい。

• 12/18(火)　16:00-17:30

• 木下　文恵 「Stevens-Johnson 症候群(SJS) および中毒性表皮壊死融解症(TEN) の眼合併症に関する疫学調査」

  木下　文恵 「Stevens-Johnson 症候群(SJS) および中毒性表皮壊死融解症(TEN) の眼合併症に関する疫学調査」
  
  Stevens-Johnson 症候群および中毒性表皮壊死融解症は、主に薬剤を原因とし、全身の皮膚と粘膜を障害する重症薬疹である。 本疾患の眼合併症については、過去に全国調査を行っており、論文報告もなされている。今後、追加で実施した調査の解析を実施する予定であり、 その背景や過去の報告について紹介するとともに、データの概要や解析方針について報告する。

• 亀井　修　「日本人成人男女の体型の違いとCT 検査における臓器線量の検討」

  亀井　修　「日本人成人男女の体型の違いとCT 検査における臓器線量の検討」
  
  医療現場で得られた、Ｘ線ＣＴ写真から日本人成人男女の臓器体積を計測しました。同時に、胸部上縁から骨盤下端までの各臓器を数値に置き換えてボクセル化しました。 そのボクセルデータを使用して、モンテカルロシミュレーションにより仮想Ｘ線ＣＴを構築し、ボクセルファントムにＸ線を照射し、各臓器の被ばく線量を推定しました。 以上の演算で得られた、臓器体積および被ばく線量を重回帰分析しました。

• 1/22(火)　16:00-17:30

• 藤川　桂「各層間の事後分布の類似度に基づき情報借用するベイズ流バスケット試験デザイン」

  藤川　桂「各層間の事後分布の類似度に基づき情報借用するベイズ流バスケット試験デザイン」
  
  特定の遺伝子変異への薬剤の効果を、様々ながん種（層）において同時に評価するバスケット試験においては、ベイズ流階層モデルを中心とした様々なデザインが提案されている。 本発表では、各層間の事後分布の類似度（1-Jensen-Shannon divergence）に基づき情報借用を行う新たなデザインについて報告する。 また、動作特性に関するシミュレーションの結果について各層を独立としたデザイン、ベイズ流階層モデルを用いたデザインとの比較を行ったので報告する。

• 2/19(火)　16:00-18:15

• 法里　優 「MRIを用いた血流評価に基づく大動脈弁狭窄症の重症度評価の有用性」

  法里　優 「MRIを用いた血流評価に基づく大動脈弁狭窄症の重症度評価の有用性」
  
  大動脈弁狭窄症(AS)の重症度評価は従来経胸壁心臓超音波検査で行われる。しかし、評価項目の一つである弁口面積が過小評価されることが多く、 さらにLow Flow Low Gradient AS(LF/LG AS)などは従来法では重症度評価に難渋する症例が多い。近年、LF/LG ASに対しドブタミン負荷心臓超音波検査が推奨されているが、 侵襲度が非常に高い。そこで、我々はMRIを用いたASの重症度評価方法を考案した。従来法での弁口面積とMRIで計測された弁口面積を単回帰分析にて比較し、MRIの有用性について検討した。

• 菱川　法和　「関節リウマチ患者に対するリハビリテーション治療での最適な負荷量設定に向けた身体活動量の調査」

  菱川　法和　「関節リウマチ患者に対するリハビリテーション治療での最適な負荷量設定に向けた身体活動量の調査」
  
  高齢者の予防医療の一環として，リハビリテーションは医療（病院）から介護（日常生活）に重点を移している．一方，関節リウマチ（Rheumatoid Arthritis: RA）患者は高齢化による筋肉量減少に加え， 疾患による炎症や治療上用いられるステロイド使用により著しく全身の筋が損耗する（二次性サルコペニア）ことが知られている．そのため容易に転倒などの出来事が引き起こされ，移動能力は低下し要介護となる． 筋肉量の増強には運動療法が重要だが，関節保護を中心としたRA患者に対するリハビリテーション治療では，負荷量設定に課題がある． しかし予防医療の観点からは，可能な限り高い日常生活の活動量を保つことや介護リハビリテーションが担う役割が大きい． 本研究では，RA患者の日常生活と介護リハビリテーションにおける身体活動量を定量化し，最適な負荷量の設定に関する知見を得ていく予定である．

当教室では学内で以下の講義を担当しております。

大学院統合医科学専攻（総合コース専門領域）

【講義Ａ】・・・1年次

• 1） 研究実施計画書、評価項目、統計的仮説、ランダム化
• 2） 標本サイズ設定、解析対象集団、中間解析、サブグループ解析
• 3） 観察研究のデザイン

【講義Ｂ】・・・2年次

• 1） 推測統計学の基礎、基本となる統計手法
• 2） 予後因子解析、予後指標の構築、代替評価項目の評価
• 3） メタアナリシス、医療経済評価

【演習】・・・1～2年次

　鴨川統計集会を参照してください。

【特講】・・・1～3年次

　生物統計学分野における最先端の研究について講義を行う。

【論文指導】

　関心のある領域の臨床研究データの統計解析に基づいて、予後因子の同定、予後指標の構築、予防・診断・治療効果の推定を正しい方法で行えるように指導する。

大学院統合医科学専攻（共通領域）

【生物統計学概論】　7/17 18:00-19:30@第２講義室

　臨床試験はデザイン・計画の段階から始まり、試験実施・データ管理・モニタリングを経て、データ解析・報告書作成に至る。この各ステップが統計的方法を必要としている。再現性によって結果を保証することが可能な基礎実験と異なり、同じデザインで繰り返すことが困難な臨床試験においては、デザインと手続きの妥当性から結果を保証するしかない。本講義では、ランダム化対照試験の標準的方法、および探索的臨床試験のデザインとして有用と思われるベイズ流の方法について解説する。

【統合医科学概論】　11/27 18:00-19:30@第２講義室

　予後因子解析は、観察研究や予後調査のデータから重要な情報を得る基本的手法の1つで ある。しかし、一口に予後因子解析と言っても、その目的は様々であり、目的を整理し、目的に合った統計的手法を用いて妥当な結果導くことはそれほど容易ではない。予後因子解析の意義は、１）疾患実体を明らかにすること、２）予防法、治療法開発の手掛りを得ること、３）試験デザインに利用すること、である。本講義では、予後因子解析の基礎となる方法（ロジスティック回帰分析、Cox回帰分析）の解説、および事例の紹介を行う。

大学院医科学専攻（修士課程）

【生物統計学概論】総合講義「臨床薬理学」と合同実施　4/25 3,4限

　観察研究および臨床試験のデザインについて理解するとともに、臨床研究に関する法規制、研究公正の基本を知る。

【医科学演習】

　臨床研究論文を正しく読むために、臨床研究の方法論、特に統計的デザイン、データの質管理、結果の報告などについて学習する。
　

大学院特別講義

3/18 17:30-19:00 臨床講義棟南臨床講義室

「統計的エビデンスとパブリックヘルス」

中央大学 理工学部 人間総合理工学科　大橋 靖雄 教授（客員教授）

抄録： 1990年、東大工学部（計数工学科）助手・附属病院中央医療情報部助教授から当時の東大保健学科の疫学教室教授に就任した演者に、一関係者から投げられた言葉が、「お前にパブリックヘルスなんかできるものか」であった。生物統計と薬剤疫学を東大医学部で方向づけよ、が選考委員会の方針であったので、この激励は気にせず、いわゆる公衆衛生（パブリックヘルス）の世界に入ってみて驚いた。新薬治験のひどさやがん領域以外ではまともな臨床試験は日本には存在しないことは知っていたものの、それ以上に重要な健康政策決定の基本となるべき統計的エビデンス（大規模な予防研究やデータベース）がこの国にはほぼ存在しない。故・開原茂允先生（中央医療情報部初代教授）のお言葉「日本の医療に無いものは二つ：データベースと統計」を実感した。 本講演では、統計方法論とパブリックヘルスの歴史的関係を俯瞰し、演者が遭遇した、以下のようなわが国でのパブリックヘルスと統計的エビデンスのミスマッチを紹介する。 MEGAスタディ；高脂血症患者に対してわが国発のプラバスタチンンの効果を検証した当時最大の臨床試験MEGAスタディの結果がマスメディアでどのように取り上げられたか　 乳癌検診キャンペーン：ある女性乳癌患者の若すぎる死をきっかけに行われた若年女性に対する根拠の無いマンモグラフィ検診キャンペーンと反対運動 メタボ健診：十分な効果の予測がないまま実施された腹囲測定 HPVワクチン：疫学的に明確でない有害反応で停止したままの勧奨と続々発表される日本人に対する効果 臨床では患者視点の医療が叫ばれる中、国民の共感と協力を得たパブリックヘルスの実践をどう行うべきか。迂遠ではあるが、正しい情報を適切な時期・対象・手段・媒体で届けるヘルスコミュニケーションを充実させるべきであろう。