当教室では大学院統合医科学専攻の演習として、「鴨川統計集会」(Kamogawa Statistical Conference; KSC)を実施しております。
堀口 剛 「希少疾患患者を対象とした臨床試験におけるAdaptive Designの提案」
Adaptive Designとは、試験中に蓄積されていくデータに基づいて試験デザインの変更を行う臨床試験デザインである。そのため、一般的な固定デザインに比べより柔軟なアプローチを開発企業や研究者に提供することができる。
臨床試験設定の多様性から、一般論としてAdaptive Designの有用性を議論することには限界があるため、より具体的な状況を想定した上での評価が必要である。
特に、希少疾患に対する臨床試験では、Adaptive Designはより多くの試験参加者にベネフィットを与えるため、より望ましいとする主張がある。
そこで本研究では、希少疾患患者を対象とした小規模な臨床試験におけるAdaptive Designの応用を提案し、その動作特性をシミュレーションによって評価した。ゼミでは研究方法およびシミュレーション結果を示し、その考察を行う。
木下 文恵「Stevens-Johnson 症候群 (SJS) および中毒性表皮壊死融解症 (TEN) の眼合併症に関する疫学調査」
Stevens-Johnson 症候群および中毒性表皮壊死融解症は、主に薬剤を原因とし、全身の皮膚と粘膜を障害する重症薬疹である。
本研究では眼合併症に関する検討を行っており、今回はこれまでの解析結果を報告する。また、眼症状の遷移について Multi-state model を用いた解析を検討しており、手法と方針について発表する。
中田 美津子 「筋萎縮性側索硬化症(ALS)の臨床試験モデルに関する考察」
ALSは根治療法のない致死的な疾患であり、患者数も少ないため、臨床試験の効率化は急務の課題である。
ALSの強力な予後予測因子であるところのALSFRS-Rスコアを結果変数とした臨床試験デザインを、有効サンプルサイズと検出力の観点から比較検討する。
横田 勲 「毒性発現確率が低い状況でのがん第I/II相試験デザインの性能比較」
がん第I相試験では、ルールベース3+3デザインや連続再評価法が用いられてきたが、
近年ではmodified Toxicity Probability Interval(TPI)法、Bayesian Optimal INterval(BOIN)法のような提案がみられる。
また、毒性だけでなく、有効性について同時に加味する改良もされている。これらデザインを整理したい。
さらに、毒性発現確率が低いことが見込まれる試験を計画することを念頭に、シミュレーションによりデザインの性能比較計画を議論したい。
手良向 聡「希少疾患に対する臨床試験デザイン‐検証とは?」
希少疾患に対する臨床試験のあり方、特に検証とは何かについて、最近の事例‐小規模単群試験での成績に基づいてある再生医療製品が条件及び期限付承認を受けたが、効果の検証がなされていないのではないかと海外から批判を受けた事例‐を用いて考察する。
周 梦雪「Variational Bayes Linear Regression(VBLR)を用いた緑内障患者視野進行状況の新しい測定方法」
緑内障は世界で失明の原因疾患として2位(2014年)とランクされている病気であり、視野欠損が進行する特徴がある。本研究は後ろ向き研究( retrospective study )である。911眼の検証用データ(test data)を ordinary least-squares linear regression (OLSLR)で解析し、5049眼のモデル構築用データ(training data)をVBLRで解析し、比較した。 VBLRは従来のOLSLRと比較し、より正確に視野進行状況を予測できる。ゼミでは研究方法、結果と考察を紹介する。
木下 文恵「Multi-stateモデルを用いた症状遷移の評価」
Multi-state modelは、最終的なイベントのみでなく、そこに至るまでの中間イベントも考慮したモデルである。
今回、Stevens-Johnson症候群および中毒性表皮壊死融解症における眼症状の遷移について、Multi-stateモデルを用いて検討を行ったので、手法と結果について報告する。
藤川 桂「EGFR遺伝子変異陽性非小細胞肺癌におけるT790M変異発現を予測するモデルの開発」
EGFR遺伝子変異陽性非小細胞肺癌において、二次治療としてオシメルチニブを使うには、T790M変異があることが条件となる。T790M変異発現をEGFR-TKI治療前から予測することが出来れば、治療戦略を考えるうえでメリットとなる。
そこで、T790M変異発現を予測するモデルの開発を目的として研究を進めている。本発表では、研究背景やデータの概要、解析方針について報告する。
鈴木 啓史「若年自然気胸に対する用手的肺縫縮の有用性の検証」
自然気胸は治療しても再発することが多い疾患です。最も根治的とされる手術加療においても、その再発率は高いのが現状です。
特に若年層でその再発率は高いと報告されています。手術を行っても再発する原因のひとつに手術に用いる自動縫合器が影響している可能性を考え、
若年者に気胸に自動縫合器を使用しない術式を施行してきました。5年間24例で再発した症例がなかった経験から、この度、前向き介入試験を行うことになりました。
無対象単群試験で、過去の蓄積した症例からの事前予測分布に基づくBayes流標本サイズ設定を行いました。この研究計画について、発表を行います。
堀口 剛「自動視野計アイモ24plus(1-2)とハンフリー視野計24-2,10-2との比較」
眼科診療において視野検査は重要な検査の一つである。自動視野計アイモは検査時間が短く、また両眼同時に検査できるため患者の負担が少ないと考えられ、
従来型のハンフリーから移行することが望まれると思われるが、検査結果の比較検討が必要である。
そこで今回、通常の診療においてアイモ及びハンフリーの視野検査が行なわれた患者の視野データを用いて解析を行った。
発表では、データの概要及び解析方法、結果について報告する。
法里 優 「大動脈弁狭窄症におけるMRIを用いた弁口面積算出の有用性」
大動脈弁狭窄症(AS)の重症度評価は従来経胸壁心臓超音波検査で行われる。しかし、解剖学的要因により評価項目の一つである弁口面積が過小評価されることが多い。さらにparadoxical Low Flow Low Gradient ASは従来法では重症度評価が難しく、症状の有無でしか手術適応を判断することができない。そこで、我々はMRIを用いて弁口面積を算出しASの重症度評価を行う方法を考案した。従来法での弁口面積とMRIで計測された弁口面積を単回帰分析にて比較しMRIの有用性について検討した。
中田 美津子「心房細動の新規発症に影響を及ぼす因子の探索的研究」
心房細動発症には、年齢、性、生活習慣など種々の因子が関与していると言われる。中でも、BMI高値は心房細動発症を増加させることが明らかになっているが、性差および年齢差による、BMI高値と心房細動発症の関連の違いは明らかにはなっていない。今回、企業健診データを用いて、性別、年齢別に心房細動の新規発症に与えるBMIの影響について探索的研究を行ったので結果を発表する。
山本 紘之「オプトジェネティクスによる幹細胞移植後の神経細胞の機能評価」
幹細胞移植における神経再生には、①移植細胞自体が機能すること、②移植細胞から分泌される神経栄養因子の効果の双方が影響している。
移植した細胞自体よりも神経栄養因子の効果の方が高いのであれば、細胞自体の移植は必要ではないと考えられる。
本研究では、神経再生に大きく寄与しているのは、定着した移植細胞の機能であるのかを検証する。
そのために、オプトジェネティクスによる選択的光刺激を用いて移植細胞のみを興奮または抑制する。
山田 歩「データマネジメントとは」
治験を含めた臨床試験において、データの信頼性が疑われる事例が、いくつも起きています。その背景の一つとして、データの品質確保プロセスが軽んじられてきたことが考えられます。
臨床試験データの品質確保において、必要かつ重要な業務が、データマネジメント(DM)です。DM業務は、なぜ必要で、どのように行われているのか。
本研修では、臨床研究推進センター(CTREC)にDM業務を委託された経験のある方だけでなく、何となくDM業務をご存知だった方、初めて耳にされた方も対象として、
DMは本質的に何をしなければならないのか、DM業務の概要、データマネジャーの役割についてご紹介いたします。
亀井 修「CT撮影における各臓器の体積が臓器線量に与える影響の多変量解析」
X線CT検査における体内臓器の被ばく線量はPHITSコードを使用したモンテカルロシミュレーションによって推定することが可能である。
しかし、臓器線量は臓器の位置や大きさによって散乱線の方向や線量が複雑に変化し、被ばく線量に影響を与えている。
そこで、本研究では臨床で得られた画像データと、体重や胸腹部の有効直径(CED、AED)および各臓器の体積などの体型要素と、シミュレーションで求めた臓器線量を多変量解析することにより、
それぞれの臓器線量に影響を与える体型の要素を推定した。
周 梦雪「Kyoto Childhood Refraction Error Study (KCRS)」
小学生、中学生で視力1.0未満の割合が年々増加している。近視眼では眼軸長が過剰に伸長し、角膜から網膜までの距離は長くなり、眼球が変形する。
眼軸長が伸長して眼球が変形してしまった場合は回復が期待できない。
近年、様々な光学的近視抑制法があり、多くは軸外収差理論に基づいているが。
軸外周差の関与だけで説明できない事象が多く確認された。本研究は高次収差と近視進行の関連について検討した。
講師: Professor Sir David Spiegelhalter FRS OBE
Chair of the Winton Centre for Risk & Evidence Communication,
University of Cambridge
概要: 前王立統計協会会長、ケンブリッジ大学教授のシュピーゲルハルター卿は、長年イギリス MRC(Medical Research Council)の生物統計ユニットで、特にベイズ流の臨床試験方法論 の研究と実践をされた世界的に著名な生物統計学者です。 現在はリスクに関する定量評価を伝える方法論について研究と広報に努められ、最近のイギリスの前立腺癌に関する取り組みを事例として講演していただきました。
当教室では学内で以下の講義を担当しております。
鴨川統計集会を参照してください。
生物統計学分野における最先端の研究について講義を行う。
関心のある領域の臨床研究データの統計解析に基づいて、予後因子の同定、予後指標の構築、予防・診断・治療効果の推定を正しい方法で行えるように指導する。
臨床試験はデザイン・計画の段階から始まり、試験実施・データ管理・モニタリングを経て、データ解析・報告書作成に至る。この各ステップが統計的方法を必要としている。再現性によって結果を保証することが可能な基礎実験と異なり、同じデザインで繰り返すことが困難な臨床試験においては、デザインと手続きの妥当性から結果を保証するしかない。本講義では、ランダム化対照試験の標準的方法、および探索的臨床試験のデザインとして有用と思われるベイズ流の方法について解説する。
予後因子解析は、観察研究や予後調査のデータから重要な情報を得る基本的手法の1つで ある。しかし、一口に予後因子解析と言っても、その目的は様々であり、目的を整理し、目的に合った統計的手法を用いて妥当な結果導くことはそれほど容易ではない。予後因子解析の意義は、1)疾患実体を明らかにすること、2)予防法、治療法開発の手掛りを得ること、3)試験デザインに利用すること、である。本講義では、予後因子解析の基礎となる方法(ロジスティック回帰分析、Cox回帰分析)の解説、および事例の紹介を行う。
観察研究および臨床試験のデザインについて理解するとともに、臨床研究に関する法規制、研究公正の基本を知る。
臨床研究論文を正しく読むために、臨床研究の方法論、特に統計的デザイン、データの質管理、結果の報告などについて学習する。
研究計画の方法として、臨床研究(臨床試験・観察研究)の方法論を理解した上で、研究実施計画書の概要が作成できることを目標とする。統計解析の方法として、データの適切な要約と視覚化の仕方、統計手法を正しく理解した上で、研究デザインおよびデータに対応した統計解析が行えることを目標とする。
1/14 18:00-19:00 臨床講義棟南臨床講義室
講師:中央大学 理工学部 人間総合理工学科 大橋 靖雄 教授(客員教授)
概要: 薬剤疫学の分野を中心として、わが国でも臨床研究・疫学研究に用いることのできるデータベースがようやく整備され、 これらを活用した観察研究に対する関心が高まっている。データベース研究の重要性と、 これらが盛んとなってきた背景を述べ、過去の薬剤有害事象の疫学研究の例を挙げ、 バイアスを調整して介入効果を推定する因果推論に基づく解析手法の発展について述べる。
生物統計学は、臨床研究・疫学研究の方法論の基礎となる学問である。臨床研究・疫学研究の計画・デザインの段階から統計解析・報告の段階まで、生物統計学の知識とその活用が必須となる。本講義では、数学的な厳密性を保ちつつ、実践における有用性を重視して、生物統計学に基づく科学の考え方を講義する。
1. 4/ 9 | 4限 | 臨床研究と生物統計学(手良向) |
2. 4/ 9 | 5限 | データの記述と推測(藤川) |
3. 4/16 | 4限 | 頻度流統計学とベイズ流統計学(手良向) |
4. 4/16 | 5限 | 2群の比較(藤川) |
5. 5/ 7 | 4限 | 分散分析と一般線形モデル(手良向) |
6. 5/ 7 | 5限 | 生存時間解析(手良向) |
7. 5/14 | 4限 | 交絡バイアスとその調整(松山教授・非常勤講師) |
8. 5/14 | 5限 | ロジスティック回帰分析とコックス回帰分析(手良向) |
9. 7/ 3 | 4限 | 観察研究デザイン (手良向) | |
10. 7/10 | 3限 | 臨床試験デザイン(1)(手良向) | |
11. 7/10 | 4限 | 臨床試験デザイン(2)(手良向) | |
12. 10/16 | 4限 | 診断法の統計的評価(藤川) | |
13. 10/23 | 3限 | メタアナリシス・費用効果分析 (手良向) | |
14. 10/23 | 4限 | 評価尺度の信頼性と妥当性 (手良向) |
臨床試験のデザインについて理解するとともに、臨床研究に関する法規制、研究公正の基本を知る。